大判例

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高松高等裁判所 平成3年(ネ)47号 判決

控訴人

株式会社高知和紙

右代表者代表取締役

濱田猛猪

右訴訟代理人弁護士

徳弘壽男

被控訴人

片岡啓一郎

株式会社大弘

右代表者代表取締役

大下恭弘

右両名訴訟代理人弁護士

行田博文

主文

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  被控訴人らの控訴人に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

主文同旨。

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二  当事者の主張

次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1(一)  原判決四枚目裏六行目の後に、次のとおり加える。

(四) 被控訴人片岡啓一郎は、昭和六〇年八月一日、別紙(一)目録一記載の小切手を支払人に呈示したが、支払われなかったので、同日、支払人より右小切手裏面に支払拒絶宣言を受けた。

(二)  同六枚目表二行目の「計画的に設立された」を「会社法人格を濫用して計画的に設立した」と改める。

(三)  同六行目の後に、次のとおり加える。

(三) よって、被控訴人片岡啓一郎は控訴人に対し、別紙(一)目録記載の小切手、約束手形七通の額面金額合計一〇九三万八二四七円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六一年六月一九日から支払済みまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(四)  同八枚目表一行目の「1(一)ないし(三)」を「1(一)及び(四)の事実は認め、同(二)及び(三)」と改め、同三行目の「目的、」の次に「営業内容、」を、同行目の「役員構成、」の次に「従業員の構成、」を加える。

(五)  同枚目裏四行目の後に、次のとおり加える。

よって、被控訴人株式会社大弘は控訴人に対し、別紙(二)目録記載の各約束手形の額面金額及び同目録1ないし5記載の各約束手形の額面金額に対する各満期日から支払済みまで手形法所定年六分の割合による利息金、同目録6ないし8記載の各約束手形の額面金額に対する訴状送達の日の翌日である昭和六二年一〇月二四日から支払済みまで商法所定年六分の割合による遅延損害金の各支払いを求める。

(六)  同九枚目表一行目を「2 甲事件の請求原因に対する認否2に同じ。」と改める。

2  当審での新主張

(一)  被控訴人ら(予備的主張)

土佐典具帖紙株式会社(以下、「土佐典具帖紙」という。)は、昭和六一年五月一六日ころ、株主総会の特別決議をしたうえ、同社の資産及び営業権全部を控訴人に譲渡したが、その際、控訴人は土佐典具帖紙の一切の債務を重畳的に引き受けた。

被控訴人らは、右重畳的債務引受に対し受益の意思表示をする。

(二)  控訴人

被控訴人らの右主張事実は否認する。

三  証拠関係

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  法人格否認の法理の主張について

1  成立に争いのない甲第八号証の一ないし三、第九号証、乙第一号証、第二号証、第四号証、第八号証、第二〇号証の一、原本の存在及び成立に争いのない甲第一六号証の一ないし五、第一七号証の一ないし九、当審証人広瀬繁子の証言、原審における控訴人代表者尋問の結果(第一、二回)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  土佐典具帖紙は、昭和四〇年五月二六日に設立された資本金一〇〇万円の株式会社で、その商業登記簿上の目的は「1 典具帖紙の製造並びに販売、2 農林物産の集荷並びに販売、3 以上に附帯する一切の事業」であるが、実際には専ら典具帖紙の製造並びに販売のみを行っていた。

典具帖紙は、楮・梶の木の皮を原料とし、これを手漉きで漉いて作られる独特な和紙で、専らタイプ用紙等に使用され、その製作には特殊の技能を要するものである。

控訴人は、昭和六〇年八月一〇日に設立された資本金二〇〇万円の株式会社で、その商業登記簿上の目的は「1 土佐和紙の加工並びに販売、2 婦人化粧用品の加工並びに販売、3 前各号に附帯関連する一切の事業」であるが、実際には、紙類の製造は一切行わず、パルプ、レーヨン、カシミロンの原料を機械漉きして作られた洋紙を購入し、これを加工して、婦人の化粧落としに使うカット綿、セイセイ(台所用品)、台所排水口の水切り袋、かや織フキン、ダスター(化学雑巾)、油こし等を製造・販売している。

(二)  土佐典具帖紙は、取引先であった輸出典具帳紙協同組合に対し約一億三〇〇〇万円の債権を有していたが、輸出典具帳紙協同組合が昭和六〇年六月三〇日支払期日の約束手形の不渡りにより事実上倒産したため、その債権回収が不可能となり、連鎖倒産を余儀なくされ、昭和六一年五月一六日解散した(同年六月四日解散登記)。解散前の代表取締役は濱田猛猪(以下「猛猪」という。)であり、取締役には猛猪の娘である濱田久仁子、猛猪の婿養子である濱田正一、猛猪の知人である尾崎源、浜田好友が、監査役には猛猪の知人である西川登がそれぞれ就任していた。

他方、控訴人の取締役には、猛猪(代表取締役)のほか、同人の親戚である濱田泉、猛猪の娘婿である佐竹利喜、猛猪の友人である廣瀬一吉が、また、監査役には前記濱田正一がそれぞれ就任している。

(三)  土佐典具帖紙の商業登記簿上の本店所在地は「高知県吾川郡伊野町一四四八番地」であり、当初は同所在地の建物を賃借して営業していたが、昭和四三年に同建物が火災にあったことから、高知県吾川郡伊野町三七五〇番地所在の建物を賃借し、以後同所で営業を続けたが、前記連鎖倒産の後は事実上営業を停止している。

控訴人の本店所在地は高知県吾川郡伊野町三七五〇番地であり、設立後、土佐典具帖紙と同じく同所在地の建物を賃借するとともに、土佐典具帖紙の使用していた電話、什器備品もそのまま引き継ぎ使用して、営業を開始した(ただし、電話はその後二回線になった。)。

(四)  控訴人の設立当時、土佐典具帖紙の従業員は四、五名で、そのうち二名が控訴人に従業員として引き継がれ、控訴人はこれらの者以外に一、二名を新規採用し、営業を開始した。

しかし、控訴人の製品は独自に開発されたものであったから、典具帖紙を漉いていた土佐典具帖紙の職人二、三名は控訴人に引き継がれなかった。

(五)  控訴人は、前記濱田正一が昭和六〇年一月ころ猛猪に対し、典具帖紙業界が斜陽化し将来性に乏しくなってきたことから、婦人の化粧落とし用加工紙等を製造する新会社の設立を勧め、猛猪の娘濱田久仁子らもこれに同調したことから、準備を進め設立された株式会社である。

すなわち、濱田正一は、控訴人が設立される一年位前から右加工紙の試作品を作り、これを土佐典具帖紙を通じて販売し、相当の実績を挙げていった。そして、控訴人が設立されてからは、控訴人において、直接、右加工紙を右販売先に販売した。

もっとも、控訴人は土佐典具帖紙と事業形態ないし営業内容が相違するため、両社の仕入先は当然異なり、また、土佐典具帖紙が専ら典具帖紙を販売していた販売先は控訴人に引き継がれなかった。

2 以上の事実関係によれば、控訴人は、土佐典具帖紙とは、その代表取締役が同一で、他の役員は両社とも猛猪の関係者で構成された同族的会社であり、本店所在地も実質的に同一で、営業用の電話、什器備品も引き継いでいるが、他方、両社の事業目的、営業内容は全く異なり、従業員も一部は引き継いだが、営業内容等が異なるため新規採用を実施し、販売先も、加工紙の試作品を土佐典具帖紙を通じて販売していた販売先は引き継いだものの(これは、設立中の控訴人が土佐典具帖紙を通じて試験販売していた販売先をそのまま引き継いだものにすぎない。)、典具帖紙専門の販売先は引き継がず、仕入先は全く異なり、また、控訴人設立の動きは輸出典具帳紙協同組合の手形不渡りより以前の昭和五九年半ばころからあり、その設立の主たる起因は、典具帖紙業界の斜陽化による新機軸への転換という、新規企業の開発・転進にあり、単に、いわゆる第二会社設立による旧企業の移行を企図したものとはいい難いものがあり、以上のような控訴人設立の端緒及び趣旨目的、その事業形態並びに営業内容等諸般の事情からすれば、控訴人と土佐典具帖紙とは別異の会社というべく、両者が実質的には同一会社であり、控訴人の設立が専ら土佐典具帖紙の債務を免れるために法人格を濫用してなされたものとは、到底認めることができない。

よって、被控訴人らの法人格否認の法理の主張は失当である。

二  重畳的債務引受の主張について

被控訴人ら主張の重畳的債務引受の事実は、本件全証拠によってもこれを認めるに足りる証拠は存しない。

三  結論

すると、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないところ、右判断と異なる原判決は、相当でないから、原判決中控訴人敗訴部分を取り消したうえ、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 砂山一郎 裁判官 上野利隆 裁判官 一志泰滋)

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